通信制大学院国際社会開発研究科修士課程 修士論文指導

  修士論文指導2
 
 以下は、通信制大学院における修士論文指導の一端をご紹介するために、
 2002年度リサーチ科目「開発政策」「開発制度」に所属する院生とのやりとりの一部を抜粋したものです。
 掲載について参加院生の承諾を得ていますが、発言者の個人情報保護の目的から、内容に修正・編集
 の手を加えてあります。(穂坂光彦)

   このページは J さん に対しての修士論文の指導内容をご紹介いたします。
 尚、構成上ふられています番号は連番になっておりませんのでご了承ください。
  
 
  J さん ( No.6 -- No.46 ) 南アジアの栄養プログラム
 No.6No.19No.35No.36No.45No.46
 

   別ページにて L さんP さん に対しての修論指導内容を紹介しています。
 
  L さん ( No.4 -- No.53 ) インドネシア都市貧困層のセーフティネット
 No.4No.5No.7No.9L さん穂坂先生L さんNo.53
 
  P さん ( No.15 -- No.48 ) フィリピンNGOによる持続的開発モデル
 No.15No.23No.39No.48
 

     

 
   No.6 (2002/05/11 06:30)  研究計画
   Name: J
 
  Jと申します。今の時点での研究計画です。あいまいな点が多いと自覚しており、討議に参加しながら、
まずは目的をはっきりさせていきたいと思っています。


研究テーマ:「Z国都市部における効果的な栄養プログラム」

1)問題意識

私は、援助プロジェクトの中で栄養教育を担当する機会に出会い、X国、Y国、そして今はZ国で活動をして
います。
  ・住民主体・住民参加の活動とはどういうものか?
  ・なぜ、都市部の栄養問題に取り組むのか?
  ・栄養学の特色を生かした活動とは?


2)大まかな目次

文献調査などすべてがこれからという状態で、本当に大まかな目次しかできていませんので手順として
現在考えていることを記します。
  1.Z国で過去に取り組まれてきた、また、現在取り組まれている栄養プログラムを文献研究並びに
     実施団体を訪問して聞取りを行うことで内容を検討する。
  2.都市部と農村部でのプログラム内容の比較を通して、都市部で取り組まれている栄養プログラムの
     特徴を明らかにする。
  3.首都A市内で取り組まれている栄養プログラムを援助団体別、活動内容別に分類し、その特徴を
     明らかにする。それらの結果をふまえ、住民への調査の計画を立てる。
  4.栄養プログラムが実施されている実際の活動現場と外部機関からの働きかけのない地域を訪問
     調査し、栄養プログラムが実施されている地域とその住民の特徴を明らかにする。
  5.実際に取り組まれてきたプログラムを総合的に検討し、効果的な栄養プログラムの要素を解明していく。


3)強調しておきたいこと

検証したい仮説は、Z国都市部の文化的、社会的背景の中で「国の政策を視野に入れたODAが国際機関や
地域に密着しているNGOと協力することで、貧困緩和につながる効果的な栄養プログラムを実施することが
できる」です。途上国都市部での効果的な栄養プログラムをJICAに提案していきたいというのが目的なの
ですが、
  ・問題意識としてあげた3つのものが一つの研究になるのだろうか。
  ・栄養プログラムだけを独立して実施することが効果的なのか。
というあまりにも根本的すぎる問題も頭にあり、最初から研究計画を練り直さなければならないのでは
とも思いますが、今の時点での研究計画ということで提出します。
 
No.6No.19No.35No.36No.45No.46
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   No.19 (2002/06/11 01:33)  No.6 J さん
   Name: 穂坂光彦
 
  J さん こんにちは

あなたの「検証したい仮説」は、「国の政策を視野に入れたODAが国際機関や地域に密着しているNGOと
協力することで、貧困緩和につながる効果的な栄養プログラムを実施することができる。」ですが、
ここにはすごく沢山の命題が含まれています。
「効果的なプログラム実施のためには、ODAは国の政策を視野に入れる必要がある」
「効果的なプログラム実施のためには、ODAは国際機関と協力する必要がある」
「効果的なプログラム実施のためには、ODAはNGOと協力する必要がある」
「協力すべきNGOは地域に密着しているものである必要がある」
「効果的な栄養プログラムであるためには、それが貧困緩和につながる必要がある」等々。
正確には、もっと細かく文節を分ければ、さらに多くの仮説が含まれていることが分かります。
決して、からかっているわけではないので、ご自分の最も中心的な問題意識をできるだけシンプルに
述べて下さい。場合によっては複数のセンテンスでも構いません。

さて本題ですが、あなたの中心的課題は、(栄養の実態etcの調査でもなければ、具体的なプログラム
の策定でもなく)「プログラム論」であるようです。これを分析的に扱う一つの方法は、
「これまでの栄養プログラムは、・・・・を前提として策定されてきた(あるいは「実施されてきた」)。
この前提は、・・・・の場合には成立しえない。したがって・・・・・では栄養改善に結びつかなかった。
そこで効果的な栄養プログラムのためには、・・・・でなくてはならない、ということが発見できた。」と
いうようなストーリーを組み立てることでしょう。
ここで、「栄養プログラム」に、「Z国における」とか「都市の」とか「女性を対象とする」とかの形容詞がつけば、
さらにoperationalな命題になります。

「・・・」は、全くあなたの好みと洞察によります。参考のために、私自身の好みとカンを述べます。
私は「開発基礎論III」pp.152-153で軽く触れたように、「プログラム」自身が変容しながら対象との適合関係
をつくらないと効果的ではあり得ない、と考えています。
そこで、(間違っているかもしれないが、たとえば、です)「これまでの栄養プログラムは、「参加型」にせよ、
非参加型にせよ、予め想定された「必要な栄養知識」を住民に覚えさせ、実践させる、という目標を達成する
ことを前提にしていた。しかし住民は・・・・」というようなストーリーが成り立つと面白いな、と思うのです。
 
No.6No.19No.35No.36No.45No.46
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   No.35 (2002/09/29 01:46)  研究計画
   Name: J
 
  穂坂先生、みなさん、ご無沙汰しておりました。Z 国のJです。
皆さんの研究計画を読んだり、レポートを書いたり、自分の研究計画について考えたりに時間がかかり、
考えをまとめて書くということが、全然、できませんでした。穂坂先生には、休暇で帰った際にアドバイスして
いただいたにもかかわらず、その後も考えがなかなかまとまらず、連絡が遅くなり、申し訳ありません。

ずいぶん前に穂坂先生からいただいたコメントに対しての自分の考え、そこから更に考えた現在の自分の
問題意識を整理したものを送ります。現在、自分の中での問題意識は大きく分けて二つあると思います。
1つは、「栄養プログラムを実施する際に、ODAとNGOとの効果的な連携方法とはどういうものかを明らかに
したい」で、もう1つは、「微量栄養素プログラムに対する疑問を明らかにしたい」ということです。

1) ODAとNGOとの連携
先生が私が前回出した検証したい仮説があまりに多くの要素を含んでいて整理をする必要があるということ
で例としてたくさん挙げていただいた中で、自分として検証したい仮説は「効果的なプログラム実施のため
には、ODAはNGOと協力する必要がある」というものでした。これは、今までODA関係の仕事をしてきて、
その限界を感じてきたせいだと思います。
地域での活動はODAのプロジェクトで取り組むことは難しいことが多く、NGOと協力すれば効果的だと
漠然と考えました。ちょうど、現在活動しているプロジェクトで、ODAとNGO連携の可能性を探るという状況
になったこともあり、どのような形だと連携が可能で、より有効なプログラムになるのかを知りたいという
気持ちがありました。

しかし、もっと興味があることに気づくようになりました。それは、先生が前回のメールで最後に例として
あげてくださった部分を読んで考えるうちに気づいたことです。それが次のものです。

2) 微量栄養素プログラムに対する疑問
先生がだしてくださった例のように「これまでの栄養プログラムは、『参加型』にせよ、非参加型にせよ、予め
想定された「必要な栄養知識」を住民に覚えさせ、実践させる、という目標を達成することを前提にしていた。
しかし住民は・・・・」ということはずっと自分の中に問題意識としてありました。
栄養状態が悪いのは知識の欠如が問題ではなく、たとえ、外部者が与えたいと思っている知識を住民が
もったとしても実践には結びつかず、栄養状態は改善されないだろうと思っていました。

「開発基礎論Vpp. 152-153の「『プログラム』自身が変容しながら対象との適合関係をつくらないと効果的
ではあり得ない」という部分は、今回、勉強していく中で一番、頭と心に響いた部分でした。
また、同じくp.150「いったん組織されれば人びとは次々に自分たちで開発をすすめていくことができるものだ」
という部分に大きな影響を受けました。
住民が何かをきっかけとして組織され、その過程を楽しみながら、栄養状態を良くしていくプログラムにも
取り組むというような形の活動ができないものかと考えるようになりました。
しかし、現状のプロジェクトでは実現不可能ですし、自分で取り組まなくても、もうすでにどこかで取り組ま
れているのではないかと考えました。
そして、それらのプログラムは、きっとNGOで取り組まれているものだろうなという予想があります。

現在栄養プログラムというと、主流は微量栄養素プログラムです。今まで活動してきた何れの国でも、栄養
プログラムと言うと、微量栄養素プログラムがあげられることがほとんどでした。
X 国のユニセフ事務所で、「あなたはどの栄養素を担当するの?」ときかれ、「住民、特に女性が集まって
子どもの栄養状態を良くしていく方法を一緒に考える活動をしたいので、こだわる栄養素はない。」と答えた
ところ、それから、全く話し相手になってもらえなかったということがありました。
Z 国のユニセフでも同じような経験をしました。

一方、村の女性に「どんな食べ物が好き?」と聞くと、「ビタミン」と答えが返ってきて愕然としたことがありました。
Z の村で活動しているドイツの赤十字のワーカーの人に聞いた話では、入手可能な食べ物を増やすために、
家に果物の木を植えることと青菜を中心とした野菜を作る家庭菜園をすすめたところ、みんな取り組んだが、
それらの収穫物を全部売り、得たお金でクリニックに来てビタミン剤を求めるということがあったそうです。
村で活動している隊員からも同じような話を聞きました。
ほとんどのところで栄養素レベルでの栄養教育が行われてきたことに加え、微量栄養素配布プログラムが
実施されてきた結果、なんだかよくわからないけれど、ビタミンはとても重要なもので、クリニックや薬局に
売っているタブレットなどからとるものだという信念が人びとの間で、できあがってきているように思えます。
X 国の山岳地帯などでは食物だけから通年で必要な栄養素を摂るのは難しいかもしれませんが、
Z 国のように土地が豊かで、食物が豊富に実るところでは、ヨード以外の特定の微量栄養素をタブレット
などから取る必要はなく、入手可能な食物を増やし、そこからバランスよく選んで食べることでよい栄養状態
を保つことは可能だと思われます(もちろん、そこに至るまでにはいろいろな問題はありますが)。

微量栄養素プログラムは全く効果がなかったと考えているのではなく、特定の疾病や症状を軽減、
減少させるためには効果的ではあったが、緊急時には効果的でも、持続的な取り組みにはなり得なく、
Y 国のように、核実験の後、アメリカ関係のドナーがいっせいに引き上げるというようなことが起きた場合、
食物からとることが可能なのにビタミン剤に頼ってきてしまったがために対応できないということが起こり
うる危険性があること、受け身での取り組みになり、自主的にはなりえないことなどから、本当の意味での
栄養改善のための効果的なプログラムではないと考えます。微量栄養素プログラムは、栄養プログラム
なのではなく、薬や予防接種と同じグループのプログラムのような気がするのです。

「プログラム論」を分析的に扱う方法の例としてあげていただいたものにあてはめて考えますと次のように
なります。

これまで、発展途上国(特に南アジアの国々)で取り組まれてきた栄養プログラムは特定の微量栄養素
補充による疾病予防を前提としてユニセフやWHOが中心となり、実施されてきた。
この前提は、特定の微量栄養素のタブレット、カプセル等の配布なしには成立せず、人々の食生活の改善
とはつながっておらず、ドナーからの大規模な支援なしでは成立し得ない。従って、微量栄養素補充による
栄養プログラムでは栄養改善には結びつかなかった。そこで、南アジアの国々での効果的な栄養プログラム
のためには、栄養素レベルでの取り組みではなく、食物レベルで入手可能性を増やしていく方法を共に
考えていくものが必要である。

最後の部分が少し弱いと思いますが、今のところでは、このように考えています。

そして、現在はこの2番目の問題意識の部分に焦点をあて、修論の研究をしたいと考えています。
しかし、核になると思われる論文が見つけられないでいること、つまり、微量栄養素の重要性、
微量栄養素プログラムが効果的だったという論文は目にしますが、そのプログラムを批判的に書いてある
ものをまだ見つけられずにいることから、本当にできるのだろうか、自分のカンだけで突っ走っているのでは
ないかとの不安があります。

しばらくは文献探し、並びにZ国で取り組まれている栄養プログラムについて調べていここうと思っていますが、
この方向で進んでいってもよろしいでしょうか。
 
No.6No.19No.35No.36No.45No.46
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   No.36 (2002/09/30 03:34)  No.35 J さん
   Name: 穂坂光彦
 
  Jさん こんにちは

夏にお会いしたときは修論の悩みがかなり深いような印象を受けましたが、よくここまで考え抜いた、と
今回思いました。
はっきり言って、「ODAとNGOとの効果的な連携方法とはどういうものか」よりも「微量栄養素プログラム
では栄養改善には結びつかないのではないか」の方が、圧倒的に面白く、はるかに有益と思います。
前者については、NGOはODAの単なる下請けになるな、双方の比較優位の点を明確に、
コミュニケーションが大切、等々、調べる前からいくらでも挙げられそうなもの以上に結論が大きく出ることは
ないような気がします。それを実証的に究めても、だからどうということはあまりなくて、つまり、これは恋愛と
同様、論ずるよりもするべき事柄です。
後者は、現在の世界の主流栄養プログラムに変更を迫る可能性があります。わくわくするではありませんか。

「しかし、核になると思われる論文が見つけられないでいること、
つまり、微量栄養素の重要性、微量栄養素プログラムが効果的だったという論文は目にしますが、
そのプログラムを批判的に書いてあるものをまだ見つけられずにいることから、本当にできるのだろうか、
自分のカンだけで突っ走っているのではないかとの不安があります。」

未だ批判がないのなら、あなたこそがそれをするチャンスです。すでに批判がたくさん出ているものなら、
こんなテーマを取り上げても今更意味はないということになります。・・・とはいえ不安は分かります。
ただ、どういう点について既存論文を調べたいのか、を自分でまずはっきりさせてください。
それが不安を越える道です。

たとえば「微量栄養素補充による栄養プログラムでは栄養改善には結びつかなかった。」という点を
立証しようとすると、きっと大変なのだろうと思います。既存の調査も確かにないでしょう。
しかしあなたの批判点は、「持続性」と「栄養効果」の2点のようですね
(この二つは「したがって」で結ばれる関係なのですか?)。
栄養改善の実証的調査を今回は括弧に入れておいて、持続性の方を重点的に分析する、ということも
可能でしょう。

さらに実践的に意味を持つのは、村での総合的な栄養改善といったPHC的な発想が、
いつからなぜ「特定の微量栄養素補充による疾病予防」に移行したのか、
「食物レベルで入手可能性を増やしていく方法」がなぜこれまで取り入れられ得なかったのか、という
分析でしょう。

また、もう少し枠を広げて、あなたが開発基礎論IIIのレポートで記したような「緊急出産ケア」導入による
表面的な妊婦死亡率の上昇と女性の総合的な栄養改善との矛盾、といったことも、もうひとつの事例と
して平行して扱って、あわせてUNICEF/WHO路線をヒハンする、という可能性も考えられます。
 
No.6No.19No.35No.36No.45No.46
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   No.45 (2002/12/01 06:39)  研究計画
   Name: J
 
 
日本でのスクーリングでは、先生や皆さんからいろいろなコメントをいただき、ありがとうございました。
皆さんからいただいたコメントを活かして修正版をつくるところまではできていませんが、
10月31日に提出した研究計画をスクーリングの際に少し修正したものを載せます。
 
研究テーマ
「南アジア栄養プログラムの批判的検討−持続性並びに食行動変容の観点から−」
 
研究計画
1. 問題意識と研究目的
1)問題意識
   今日、貧困が、保健開発の最大のネックとなっていることは疑いがないと言われている。
そして、多くの保健問題の中で、貧困層に属する人々、特に子どもと女性の多くが栄養不良状態
にあることは早急に解決しなければならない大きな問題として捉えられてきた。そのため、世界
各国で子どもや女性を対象とした栄養改善プログラムが取り組まれてきているが、現在でも、
多くの子どもと女性は栄養不良の問題にさらされたままである。
 私は、プライマリヘルスケア(PHC)やリプロダクティブヘルスの分野で、子どもや女性の栄養
状態の向上を目的とする活動を南アジアの国々で行う機会を得て、効果的な栄養プログラムとは
どのようなものであるのかを考え続けてきた。そして、南アジアの国々で取り組むことが可能で
ある効果的な栄養プログラムを提案していきたいと考えるようになった。
まずは、その第一歩として、今まで活動をしてきたX 国、Y 国、Z 国で取り組まれてきた栄養
プログラムについて検討を加えるのが本論の目的である。
 食物援助、補助食援助、女性のエンパワーメントの焦点を当てた栄養改善プログラムなど、いろ
いろな栄養プログラムが取り組まれてきているが、1990年頃より、主流は微量栄養素プログラム
になってきているとみてよい。X 国、Y 国、Z 国においても、栄養プログラムというと、微量栄養素
プログラムを紹介されることがほとんどであった。微量栄養素プログラム以外では、他の国際援助
機関と協力して活動をしていくこと自体が、非常に難しいという印象を受けた。
 一方、プログラムの対象としている農村地域では、ほとんどのところで栄養素レベルでの栄養
教育が行われてきたことに加え、微量栄養素配布プログラムが実施されてきた結果、ビタミンとは
どういうものであるのかはわからないが、とても重要なもので、クリニックや薬局に売っている
タブレットなどからとるものだという信念が人びとの間で浸透しているように思われる。
しかしZ国のように土地が豊かで、食物が豊富に実るところでは、ヨード以外の特定の微量栄養素
をタブレットなどからとる必要はなく、入手可能な食物を増やし、そこからバランスよく選んで食べる
ことでよい栄養状態を保つことは可能だと考えられる。
 もちろん、微量栄養素プログラムは全く効果がなかったと考えているのではない。
特定の疾病や症状を軽減、減少させるためには効果的ではあったが、緊急時には効果的でも、
持続的な取り組みにはなり得ないものである。何らかの理由でドナーがいっせいに引き上げると
いうようなことが起きた場合、食物からとることが可能なのにビタミン剤に頼ってきてしまったが
ために対応できないということが起こりうる。
一般的にも、微量栄養素プログラムはデリバリー型であることから、当事国の人々にとって
受け身での取り組みになり、自主的にはなりえないことなどから、本当の意味での栄養改善の
ための効果的なプログラムではないと考える。
 本来、栄養問題は包括的なものであると捉えられる。ところが、包括的PHCが、単位あたりコスト
に対して治癒・予防の効率の高い活動に集約され選択的PHCに移行したように、近年、WHOも
ユニセフも微量栄養素に着目した活動が中心となっているということは、すぐ目に見えるかたち
での効果を求める傾向が栄養分野にもあらわれてきたのではないか。人びとの食生活改善の
ためには、本来の包括的な取り組みを展開していく必要があるということが私の問題意識である。
 
2)研究目的
  ユニセフ・WHOを中心に貧しい人々への栄養改善を主要戦略として南アジアの国々において
取り組まれている微量栄養素プログラムを持続性と食行動変容の面から批判的に検討し、
代替案として実施可能な効果的な栄養プログラムを提案することを目的とする。
 
 
2. 研究計画と方法
1)検証したい仮説
  1990年頃より、発展途上国(特に南アジアの国々)で取り組まれてきた栄養プログラムは特定
の微量栄養素補充による疾病予防を前提としてユニセフやWHOが中心となり、実施されてきた。
しかしこのプログラムは、下記の点から効果的ではないと考える。
・特定の微量栄養素のタブレット、カプセル等の配布なしには成立しない。
・人々の食生活の改善とはつながっていない。
・ドナーからの大規模な支援なしでは成立し得ない。
そこで、南アジアの国々での効果的な栄養プログラムのためには、栄養素レベルでの取り組み
ではなく、食物レベルで入手可能性を増やしていく方法を住民と共に考えていくもの
(アプローチなのか? プロジェクトなのか?)が必要である。
 
2)具体的な計画並びに方法
@ 文献研究:2003年5月くらいまで
  「栄養プログラム」「微量栄養素」「持続性」「食行動変容」をキーワードに文献研究を行う。
「持続性」「食行動変容」というそれぞれのキーワードに対し、何をもって効果的な栄養プログラム
とするのかを明らかにしてから、下記の視点で文献研究を行う。
・村での総合的な栄養改善といったPHC的な発想が、なぜ「特定の微量栄養素補充による
  疾病予防」に移行したのかについて、ユニセフ、WHO、FAOなどの出版物を中心に検討を行う。
・南アジアの国々で取り組まれてきた栄養プログラムについて、取り組まれた年代とその内容など
  について調べ、「持続性」「食行動変容」の視点から有効であったのかの考察をする。
 
A 聞取り調査:2003年4月くらいまでに実施
  Z 国で取り組まれている栄養プログラムについて、実施している機関(政府担当機関、NGOなど)
の担当者より聞取り調査を行う。
 
B 調査:2003年7月くらいまでに計画をたて、8-9月に調査を実施、10-11月に解析
  Z 国の地域で取り組まれているプログラムの検証から仮説を証明する。
-地域などは未定だが、文献調査、聞取り調査から微量栄養素プログラムを実施している地域と、
村での総合的な栄養改善プログラムを実施している地域を選び、二つの地域住民の、食生活を
中心とする生活状況、意識、行動に関する調査を行う。
 
No.6No.19No.35No.36No.45No.46
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   No.46 (2002/12/11 11:51)  No.45 J さん
   Name: 穂坂光彦
 
  この「問題意識」は非常に分かりやすくなったと思います。
今回は「食行動変容は、(微量栄養素供給以上に)栄養状態の改善をもたらす」という点の実証調査は
行わず、括弧に入れて前提にしておく、ということですね。
ただ最初のパラグラフ

「今日、貧困が、保健開発の最大のネックとなっていることは疑いがないと言われている。
そして、多くの保健問題の中で、貧困層に属する人々、特に子どもと女性の多くが栄養不良状態に
あることは早急に解決しなければならない大きな問題として捉えられてきた。
そのため、世界各国で子どもや女性を対象とした栄養改善プログラムが取り組まれてきているが、
現在でも、多くの子どもと女性は栄養不良の問題にさらされたままである。」

というのは、論理が逆転していませんか?

「今日、貧困緩和が再び開発領域の焦点とされるなかで、保健問題が貧困の最大要素のひとつである
ことは疑いがないと言われている。そこで、貧困層に属する人々、特に子どもと女性の多くが栄養不良状態
にあることは早急に解決しなければならない大きな問題として捉えられてきた。・・・」 ということでないと、
後につながらないのでは?

私の考えでは、「貧困」を所得や家計構造からのみ説明するのはますます困難になっています。
「能力の貧困」とか難しいことを言わずに現象面に限っても、居住、保健、環境など複合的な貧困の
諸「側面」(「原因」では必ずしもない)をholisticに説明しないと貧困を明らかにしたことにならないでしょう。

やや細かいですが、

「一方、プログラムの対象としている農村地域では、ほとんどのところで栄養素レベルでの栄養教育が
行われてきたことに加え、微量栄養素配布プログラムが実施されてきた結果、ビタミンとはどういうもので
あるのかはわからないが、とても重要なもので、クリニックや薬局に売っているタブレットなどからとるものだと
いう信念が人びとの間で浸透しているように思われる。」

ここで信念はややおかしい。括弧付き「信念」か、皮肉を込めて「信仰」とすべきでは。

「村での総合的な栄養改善といったPHC的な発想が、なぜ「特定の微量栄養素補充による疾病予防」
に移行したのかについて、ユニセフ、WHO、FAOなどの出版物を中心に検討を行う。」

通学制のSさんが、バマコイニシアティヴを中心に、「包括的PHCが、どう変質していったのか」について、
ユニセフ等の出版物を中心に検討を行う、ことをしています。彼女は執筆最終段階ですが、資料など、
協力して探してはどうかと思います(以前、言いましたっけ?)。
 
No.6No.19No.35No.36No.45No.46
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