日本でのスクーリングでは、先生や皆さんからいろいろなコメントをいただき、ありがとうございました。
皆さんからいただいたコメントを活かして修正版をつくるところまではできていませんが、
10月31日に提出した研究計画をスクーリングの際に少し修正したものを載せます。
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研究テーマ
「南アジア栄養プログラムの批判的検討−持続性並びに食行動変容の観点から−」
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研究計画 |
1. 問題意識と研究目的 |
1) | 問題意識 |
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今日、貧困が、保健開発の最大のネックとなっていることは疑いがないと言われている。
そして、多くの保健問題の中で、貧困層に属する人々、特に子どもと女性の多くが栄養不良状態
にあることは早急に解決しなければならない大きな問題として捉えられてきた。そのため、世界
各国で子どもや女性を対象とした栄養改善プログラムが取り組まれてきているが、現在でも、
多くの子どもと女性は栄養不良の問題にさらされたままである。
私は、プライマリヘルスケア(PHC)やリプロダクティブヘルスの分野で、子どもや女性の栄養
状態の向上を目的とする活動を南アジアの国々で行う機会を得て、効果的な栄養プログラムとは
どのようなものであるのかを考え続けてきた。そして、南アジアの国々で取り組むことが可能で
ある効果的な栄養プログラムを提案していきたいと考えるようになった。
まずは、その第一歩として、今まで活動をしてきたX 国、Y 国、Z 国で取り組まれてきた栄養
プログラムについて検討を加えるのが本論の目的である。
食物援助、補助食援助、女性のエンパワーメントの焦点を当てた栄養改善プログラムなど、いろ
いろな栄養プログラムが取り組まれてきているが、1990年頃より、主流は微量栄養素プログラム
になってきているとみてよい。X 国、Y 国、Z 国においても、栄養プログラムというと、微量栄養素
プログラムを紹介されることがほとんどであった。微量栄養素プログラム以外では、他の国際援助
機関と協力して活動をしていくこと自体が、非常に難しいという印象を受けた。
一方、プログラムの対象としている農村地域では、ほとんどのところで栄養素レベルでの栄養
教育が行われてきたことに加え、微量栄養素配布プログラムが実施されてきた結果、ビタミンとは
どういうものであるのかはわからないが、とても重要なもので、クリニックや薬局に売っている
タブレットなどからとるものだという信念が人びとの間で浸透しているように思われる。
しかしZ国のように土地が豊かで、食物が豊富に実るところでは、ヨード以外の特定の微量栄養素
をタブレットなどからとる必要はなく、入手可能な食物を増やし、そこからバランスよく選んで食べる
ことでよい栄養状態を保つことは可能だと考えられる。
もちろん、微量栄養素プログラムは全く効果がなかったと考えているのではない。
特定の疾病や症状を軽減、減少させるためには効果的ではあったが、緊急時には効果的でも、
持続的な取り組みにはなり得ないものである。何らかの理由でドナーがいっせいに引き上げると
いうようなことが起きた場合、食物からとることが可能なのにビタミン剤に頼ってきてしまったが
ために対応できないということが起こりうる。
一般的にも、微量栄養素プログラムはデリバリー型であることから、当事国の人々にとって
受け身での取り組みになり、自主的にはなりえないことなどから、本当の意味での栄養改善の
ための効果的なプログラムではないと考える。
本来、栄養問題は包括的なものであると捉えられる。ところが、包括的PHCが、単位あたりコスト
に対して治癒・予防の効率の高い活動に集約され選択的PHCに移行したように、近年、WHOも
ユニセフも微量栄養素に着目した活動が中心となっているということは、すぐ目に見えるかたち
での効果を求める傾向が栄養分野にもあらわれてきたのではないか。人びとの食生活改善の
ためには、本来の包括的な取り組みを展開していく必要があるということが私の問題意識である。
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2) | 研究目的 |
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ユニセフ・WHOを中心に貧しい人々への栄養改善を主要戦略として南アジアの国々において
取り組まれている微量栄養素プログラムを持続性と食行動変容の面から批判的に検討し、
代替案として実施可能な効果的な栄養プログラムを提案することを目的とする。
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2. 研究計画と方法 |
1) | 検証したい仮説 |
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1990年頃より、発展途上国(特に南アジアの国々)で取り組まれてきた栄養プログラムは特定
の微量栄養素補充による疾病予防を前提としてユニセフやWHOが中心となり、実施されてきた。
しかしこのプログラムは、下記の点から効果的ではないと考える。
・特定の微量栄養素のタブレット、カプセル等の配布なしには成立しない。
・人々の食生活の改善とはつながっていない。
・ドナーからの大規模な支援なしでは成立し得ない。
そこで、南アジアの国々での効果的な栄養プログラムのためには、栄養素レベルでの取り組み
ではなく、食物レベルで入手可能性を増やしていく方法を住民と共に考えていくもの
(アプローチなのか? プロジェクトなのか?)が必要である。
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2) | 具体的な計画並びに方法 |
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文献研究:2003年5月くらいまで |
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「栄養プログラム」「微量栄養素」「持続性」「食行動変容」をキーワードに文献研究を行う。
「持続性」「食行動変容」というそれぞれのキーワードに対し、何をもって効果的な栄養プログラム
とするのかを明らかにしてから、下記の視点で文献研究を行う。
・村での総合的な栄養改善といったPHC的な発想が、なぜ「特定の微量栄養素補充による
疾病予防」に移行したのかについて、ユニセフ、WHO、FAOなどの出版物を中心に検討を行う。
・南アジアの国々で取り組まれてきた栄養プログラムについて、取り組まれた年代とその内容など
について調べ、「持続性」「食行動変容」の視点から有効であったのかの考察をする。
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A |
聞取り調査:2003年4月くらいまでに実施 |
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Z 国で取り組まれている栄養プログラムについて、実施している機関(政府担当機関、NGOなど)
の担当者より聞取り調査を行う。
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B |
調査:2003年7月くらいまでに計画をたて、8-9月に調査を実施、10-11月に解析 |
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Z 国の地域で取り組まれているプログラムの検証から仮説を証明する。
-地域などは未定だが、文献調査、聞取り調査から微量栄養素プログラムを実施している地域と、
村での総合的な栄養改善プログラムを実施している地域を選び、二つの地域住民の、食生活を
中心とする生活状況、意識、行動に関する調査を行う。
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