通信制大学院国際社会開発研究科修士課程 開発基礎論V

  開発基礎論V
 
 これは開発基礎論Vの授業の様子をお伝えするために、2002年度の同科目掲示板に投稿された
 約200の書き込みの一部を抜粋したものです。冗長さを防ぎ、また参加院生の個人情報保護の目的
 から、内容に修正・編集の手を加えてあります。(穂坂光彦)

   このページは以下にまとめてあります見出しごとに、ご覧ください。
 
 
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   No.100 (2002/06/20 03:11)  テキスト第17章
   Name: Q
 
  No.99までの議論とは離れてしまいますが、
テキストp.141からの「人間開発指数」について、私はまだ手に取ったことがなかったので
『UNDP人間開発報告書』巻末表を見てみました。実物がお手元にないと分かりにくいかもしれませんが、
表を理解するために少し整理してみましたので提示させてください。
表の見方、数値の整理の仕方が間違っていたら、教えてくださると助かります。

2001年の人間開発指数(HDI)表には、全部で162カ国が指数の高い順に並べられており、
それらが上位から「人間開発高位国」「同中位国」「同低位国」に3分されています。
国数の内訳は順に,48,78,36です。
中・低位国に入っているアジアの国を参考までにいくつか書きますと(カッコ内は順位)、
中位国はMalaysia(56),Thailand(66),Philippines(70),Sri Lanka(81),Viet Nam(101),
Indonesia(102),India(115),Myanmar(118),Cambodia(121)。
低位国はNepal(129), Bangladesh(132)となっています。日本は高位国、9位です。

この表の右端に、「1人あたりGDP順位マイナスHDI順位」という項目があります。
GDP順位からHDI順位を引いた数値を示したもので、絶対値が大きいほど、
その国のHDIとGDPの順位の差が甚だしい、ということになります。
さきほどの国々の、この項目の数値は、中位国ではMalaysia(-4),Thailand(-3),Philippines(21),
Sri Lanka(19),Vietnam(19),Indonesia(3),India(0),Myanmar(22),Cambodia(13)。
低位国ではNepal(7), Bangladesh(-4)。そしてJapan(2)です。
数値の正負は,その国のHDI順位がGDP順位よりも上か下かを意味していて、
マレーシアのHDI順位はGDP順位と比べると4位下がり、ミャンマーは22位も上がります。

高・中・低位の各国群で、この項目の数値が正になった国(つまりHDI順位がGDP順位より上)と
負になった国(HDI順位<GDP順位)の割合がどうなっているか、それぞれ調べてみたところ:
高位国群 正 30カ国(30/48*100=62.5%) 負 18カ国 (18/48*100=37.5%)
中位国群 正 51カ国(51/78*100=65.3%) 負 27カ国 (27/78*100=34.6%)
低位国群 正 16カ国(16/36*100=44.4%) 負 20カ国 (20/36*100=55.5%)
(* 数値0はとりあえず正に含めています)
ということで、高位国群と中位国群については、正負の割合が同じような結果になりました。

次に、この項目の絶対値の分布状況が高・中・低位国群の3分類によって特徴があるような気がしたので、
数値を10ずつ区切って、それぞれの数値幅に該当する国の数と、その割合を計算してみました。
ここへ表を載せると恐ろしく見づらくなりそうなのでやめますが、
横軸に数値幅、縦軸に%をとって、3群の%値をそれぞれプロットしてグラフにすると、
正数値の大きさの程度において、高位国群と中位、低位国群では様相が少し違うように見えます。
すなわち、高位国群では27カ国(この群の56.3%)が順位差1〜10の間の小差に収まっていますが、
中位国群では順位差1〜10であったのが20カ国(25.6%)、順位差11〜20であったのが16カ国(20.5%)、
21〜30が7カ国(9.0%)と、大きな差でHDI順位が上がっている国が高位国群より多い。
低位国群も,中位に比べ%値が下がりますが、どちらかというと中位国群に近いパターンを
示しているのではないかと思います。

HDIは「余命指数」「教育指数」「所得指数」の平均値であり、この数値はその国の人々が
基礎的潜在能力を有しているか、すなわち本来は平等にもち合わせるはずの達成可能な基礎的
選択肢を実質的にもっているか、ということの現状を示すものだ、という理解でよければ、
この順位とGDP順位との関係において、人間開発高位国群でHDI順位がGDPのランクよりも
下がっている国が4割近く含まれているということは、テキストに例示されていたニューヨークの
黒人貧困地区に住むアメリカ人とバングラデシュ農村の小作人のように、
実は基礎的潜在能力の発露において歪みが生じている可能性が高いことの現れだと言えるかもしれません。
また、特に人間開発中位国に位置づけられている国々でGDP順位との差が大きいところを見ることができて、
外側からかかわる者として「貧困」の意味を慎重に考えなければな、と思いました。

実際には、どうなのでしょう?
例えば上記の中位国群で、GDP順位よりもHDI順位を大幅に上げている国での
長期滞在の経験をおもちの方で、そこに住む人々が基礎的なものもそうでないものも含めて、
各自の機能からなる選択肢を自由に実現している、と実感されることはありますか?

それと、センによる「貧困」の定義と、それをもとにした人間開発指標がGDP値からは
見ることのできない面を示してくれるものだ、ということは分かったのですが、
一方で「貧困」と「豊かさ」がどのように結ばれているのだろうか、というところがよく分かりませんでした。
具体的には、p.140の第3段落の前後のつながりが今のところよく飲み込めていません。
p.140, 1行目「多くの選択肢の中から、彼/彼女がこの達成度で表されるレベルを主体的に
選んで達成したのだというその自由、(中略)つまり潜在的な可能性こそが重要」ということですが、
この状態を「豊かさ」とすると、第3節にあるように「貧困脱出」からすでに「豊かさ」のプロセスは
始まっている、ということでしょうか。
そうだとすれば、その指標は、プロセスを扱うことになるのですね。

ちょっと議論が後退してしまっているかも、と反省しつつ。
 
人間開発  No.100No.101No.107
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   No.101 (2002/06/20 23:23)  ファシリテーターです
   Name: Z
 
  Qさん、No.100で人間開発指数に関する詳細な考察をありがとうございました。

「例えば上記の中位国群で、GDP順位よりもHDI順位を大幅に上げている国での長期滞在の
経験をおもちの方で、そこに住む人々が基礎的なものもそうでないものも含めて、
各自の機能からなる選択肢を自由に実現している、と実感されることはありますか?」

U国はHDI中位国であり、このご質問にあてはまることと思います。
U国に滞在したことのある私の実感では、「えっ、ほんと?」というのが正直なところです。
ここで、HDIの計算のもととなる「余命指数」「教育指数」「所得指数」の求め方について
注意が必要だろうと思います。
U国の統計は住民票を持っている国民だけを対象に作成されています。
ですから、巷のものの本には教育水準が高くて文盲率が非常に低いとさかんにうたわれています。
が、これには地方から大都市のスラムに流れてきた人たちは入っていません。
また親に住民票がなければ子供は小学校にも行けません。
という風に考えると、これは住民票のある人たちだけは各自の機能からなる
選択肢を自由に実現している、と言い換えなければなりません。

ところで皆さん、ほかの国々ではいかがでしょうか。
その他、No.100 Qさんの発言に対するご意見をお待ちしております。
 
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   No.107 (2002/06/23 10:59)  No.101について
   Name: Q
 
  Zさん、No.101で私の質問を拾ってくださってありがとうございました。
「U国の統計は住民票を持っている国民だけを対象に作成されて」いる、というご返信は、
U国について書物とデータしか参考資料のない者としては大変貴重な言葉でした。
ローデータから考察のためのデータにひきあげるときに、解釈にとって不要と思われる部分は
削られていってしまうものですが、ときには不要どころかそれこそが大事であるような要素を、
意識のあるなしに関わらず捨ててしまうことの危険性については、
心理を勉強していた頃にも痛感していました。
でも、いくら気をつけようと思っても、きれいなデータになっているほど未だに油断してしまいます。
中村尚司先生の講義でテキストに指定されている「地域自立の経済学」にも、
序章p.7で、「活字で印刷されていることなら、たいてい一から十まで正しいと信じ込んでしまう。
そんな悪い癖から抜け出せない。」と書かれています。
中村先生でさえ注意を怠らないよう気を付けておられるくらいですから、
これは相当注意しなくてはいけませんね。
 
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   No.111 (2002/06/23 19:19)  No.100への発言です
   Name: B
 
  No.100 Qさんの各国HDI及びGDPに対する分析を興味深く拝見しました。
私が一昨年まで2年半滞在したH国はHDIで115位、1人あたりGDP順位マイナスHDI順位が0で、
人間開発から見ても経済状態からみても中位国に入るようです。
国としてみればU国同様、中位国ですが、H国のように貧富の差の激しい国で平均値で
議論することは危険だというのがこのデータを見ての私の実感です。
所得も基礎的潜在能力も、国として平均化すると見えなくなるものがたくさんありそうです。
ただ、No.101 Zさんが書かれていたU国と比べると、データ取得のための母集団に偏りがない国である
とは言えそうです。10年ごとにセンサスを実施していますから。
 
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