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No.99までの議論とは離れてしまいますが、
テキストp.141からの「人間開発指数」について、私はまだ手に取ったことがなかったので
『UNDP人間開発報告書』巻末表を見てみました。実物がお手元にないと分かりにくいかもしれませんが、
表を理解するために少し整理してみましたので提示させてください。
表の見方、数値の整理の仕方が間違っていたら、教えてくださると助かります。
2001年の人間開発指数(HDI)表には、全部で162カ国が指数の高い順に並べられており、
それらが上位から「人間開発高位国」「同中位国」「同低位国」に3分されています。
国数の内訳は順に,48,78,36です。
中・低位国に入っているアジアの国を参考までにいくつか書きますと(カッコ内は順位)、
中位国はMalaysia(56),Thailand(66),Philippines(70),Sri Lanka(81),Viet Nam(101),
Indonesia(102),India(115),Myanmar(118),Cambodia(121)。
低位国はNepal(129), Bangladesh(132)となっています。日本は高位国、9位です。
この表の右端に、「1人あたりGDP順位マイナスHDI順位」という項目があります。
GDP順位からHDI順位を引いた数値を示したもので、絶対値が大きいほど、
その国のHDIとGDPの順位の差が甚だしい、ということになります。
さきほどの国々の、この項目の数値は、中位国ではMalaysia(-4),Thailand(-3),Philippines(21),
Sri Lanka(19),Vietnam(19),Indonesia(3),India(0),Myanmar(22),Cambodia(13)。
低位国ではNepal(7), Bangladesh(-4)。そしてJapan(2)です。
数値の正負は,その国のHDI順位がGDP順位よりも上か下かを意味していて、
マレーシアのHDI順位はGDP順位と比べると4位下がり、ミャンマーは22位も上がります。
高・中・低位の各国群で、この項目の数値が正になった国(つまりHDI順位がGDP順位より上)と
負になった国(HDI順位<GDP順位)の割合がどうなっているか、それぞれ調べてみたところ:
高位国群 正 30カ国(30/48*100=62.5%) 負 18カ国 (18/48*100=37.5%)
中位国群 正 51カ国(51/78*100=65.3%) 負 27カ国 (27/78*100=34.6%)
低位国群 正 16カ国(16/36*100=44.4%) 負 20カ国 (20/36*100=55.5%)
(* 数値0はとりあえず正に含めています)
ということで、高位国群と中位国群については、正負の割合が同じような結果になりました。
次に、この項目の絶対値の分布状況が高・中・低位国群の3分類によって特徴があるような気がしたので、
数値を10ずつ区切って、それぞれの数値幅に該当する国の数と、その割合を計算してみました。
ここへ表を載せると恐ろしく見づらくなりそうなのでやめますが、
横軸に数値幅、縦軸に%をとって、3群の%値をそれぞれプロットしてグラフにすると、
正数値の大きさの程度において、高位国群と中位、低位国群では様相が少し違うように見えます。
すなわち、高位国群では27カ国(この群の56.3%)が順位差1〜10の間の小差に収まっていますが、
中位国群では順位差1〜10であったのが20カ国(25.6%)、順位差11〜20であったのが16カ国(20.5%)、
21〜30が7カ国(9.0%)と、大きな差でHDI順位が上がっている国が高位国群より多い。
低位国群も,中位に比べ%値が下がりますが、どちらかというと中位国群に近いパターンを
示しているのではないかと思います。
HDIは「余命指数」「教育指数」「所得指数」の平均値であり、この数値はその国の人々が
基礎的潜在能力を有しているか、すなわち本来は平等にもち合わせるはずの達成可能な基礎的
選択肢を実質的にもっているか、ということの現状を示すものだ、という理解でよければ、
この順位とGDP順位との関係において、人間開発高位国群でHDI順位がGDPのランクよりも
下がっている国が4割近く含まれているということは、テキストに例示されていたニューヨークの
黒人貧困地区に住むアメリカ人とバングラデシュ農村の小作人のように、
実は基礎的潜在能力の発露において歪みが生じている可能性が高いことの現れだと言えるかもしれません。
また、特に人間開発中位国に位置づけられている国々でGDP順位との差が大きいところを見ることができて、
外側からかかわる者として「貧困」の意味を慎重に考えなければな、と思いました。
実際には、どうなのでしょう?
例えば上記の中位国群で、GDP順位よりもHDI順位を大幅に上げている国での
長期滞在の経験をおもちの方で、そこに住む人々が基礎的なものもそうでないものも含めて、
各自の機能からなる選択肢を自由に実現している、と実感されることはありますか?
それと、センによる「貧困」の定義と、それをもとにした人間開発指標がGDP値からは
見ることのできない面を示してくれるものだ、ということは分かったのですが、
一方で「貧困」と「豊かさ」がどのように結ばれているのだろうか、というところがよく分かりませんでした。
具体的には、p.140の第3段落の前後のつながりが今のところよく飲み込めていません。
p.140, 1行目「多くの選択肢の中から、彼/彼女がこの達成度で表されるレベルを主体的に
選んで達成したのだというその自由、(中略)つまり潜在的な可能性こそが重要」ということですが、
この状態を「豊かさ」とすると、第3節にあるように「貧困脱出」からすでに「豊かさ」のプロセスは
始まっている、ということでしょうか。
そうだとすれば、その指標は、プロセスを扱うことになるのですね。
ちょっと議論が後退してしまっているかも、と反省しつつ。
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